※このページは2018年末のイベントのレポートです。
最新の2019年末のレポートは こちら をご覧下さい。

11月末、「楽天クリムゾンハウス」にて「PC・デジタルフェア 2018」が開催されました。
これは毎年開催されているリンクシェア主催のイベントで、大手パソコンメーカーの広報が一堂に会する、希有な機会です。

そこで今回、PCゲーマーの皆さん向けに、各社のゲーミングパソコンの特徴や開発コンセプト、今期の取り組みなどをお聞きしてきました。
お話を伺えたのは「マウスコンピューター」、「Dell」、「HP」、「パソコン工房」の4社。
各社がどんな製品開発をしているのか、その傾向を知る参考にしていただければと思います。

PCデジタルフェア

マウスコンピューター(G-Tune)

タレントを使ったテレビCMで知名度急上昇中のPCメーカー。
新興メーカーだと思われている方も多いと思うが、かなり早い時期から「BTO」によるパソコン販売を行ってきた、秋葉原を拠点とする国内メーカーだ。

※「BTO」は「Build To Order」の略で受注生産を意味する。ユーザーがパソコンを構成するパーツを選択し、メーカーに組み立ててもらい、送ってもらう販売スタイルのこと。

そしてマウスコンピューターは、いち早く「ゲームPC」のブランド化を行い、その開発と販売に力を入れてきた。
それが『G-Tune』であり、ゲーミングモデルとしては老舗と言える。

その G-Tune は2018年にモデルチェンジを行っており、ケースも内部構造も大きく変わった。
以前の G-Tune のデスクトップPCはゲーミングモデルらしい、凹凸の多い装飾だったが、新型はすっきりしたシンプルな外観に変わっている。
最近はこうしたデザインが流行のようだ。

マウスコンピューター/G-Tune NEXTGEAR
モデルチェンジしたG-Tuneの中型PC「NEXTGEAR」。小型の「NEXTGEAR-MICRO」も新しくなった。
黒を基調としたシックな見た目。天井に端子があるのに注目。

そして内部はビデオカードを下部、電源ユニットを上部に配置し、吸気は底から行うようになっている。

以前のモデルは前面から吸気を行っていたが、「ビデオカードと電源ユニットをできるだけ離して双方の熱が影響しないようにしたい」というのに加え、「ビデオカードは冷却のために吸気口の近くに配置したい」という考えで、電源を上にする構造になったそうだ。

エアフロー(通気)の確保のため、ストレージ(HDDやSSD)を前面上部に配置しているのも珍しい。
G-Tune はこうした、ビデオカードの安定動作を優先する構造になっているのが特徴だ。

マウスコンピューター/G-Tune NEXTGEAR内部
今期のG-Tune NEXTGEARの内部。電源ユニットは左上のケース内に入っている。
右上にHDDとSSD、さらに薄型の光学ドライブの収納スペースが。
配線はマザーボードの裏側を通っているため、中はすごくスッキリ。
2つの丸い開口部は増設ファンの取り付け部で、そのファンを吸気にするか排気にするかを設定できるとのこと。
下部の吸気口にはホコリの進入を防ぐメッシュがあり、簡単にはずして掃除できる。

また小型と中間のゲーミングモデルは、上部や天井に USB やイヤホンジャック、HDMI 端子を配置している。

開発前にウェブ放送を通して4000人にアンケートしたところ、デスクトップPCのユーザーの90%は本体を床に置いていることが判明。
そのため床置きで使いやすい場所に端子を設けたそうだ。

HDMI 端子を前面に用意しているのは、VRゴーグルやゲーム機、ウェブ実況機器や小型モニターの接続などで利用率が伸びているため。
この辺も現代のゲーミングPCらしい。

ノートのゲーミングモデルは、まだ第9世代 Core のモバイル用 CPU が発売されていないため、それが出てからのモデルチェンジになると思われるが、長時間駆動モデルや NVMe対応SSD(最新の高速SSD)搭載モデル、デスクトップの CPU を使ったノートなど、特色のある製品が用意されていた。

マウスコンピューター/G-Tune NEXTGEAR内部 天井部の端子
「NEXTGEAR」(画像左)と「NEXTGEAR-MICRO」(画像右)の本体上部にある端子。
上部に端子があるのは最近は一般的だが、天井にあるというのはなかなか思い切っている。
メインモニターの接続以外でHDMI端子を利用している人は60%を超えているとのこと。ただ、ウェブ放送でのアンケートなので、回答者はちょっと偏っているかもしれない。
なお、底から給気するPCは絨毯の上に置くのは避けること。


G-Tuneのゲーミングノート。公称8時間駆動の長時間バッテリーモデル。これはゲーミングノートとしては破格に長い。ビデオカードはGeForce GTX1050。

G-Tune はeスポーツチームのスポンサー活動も早くから行っている。
『DetonatioN Gaming』や『Team:GODSGARDEN』、『Unsold Stuff Gaming』といったチームと提携し、支援すると同時にフィードバックも受け、コラボモデルを発売している。

マウスはゲーム実況やMMD(MikuMikuDance。3D CGソフト)に特化したモデルを用意するなど、以前からサブカルチャーを重視していたため、eスポーツの支援もその延長にあったと思われる。

マウスコンピューターは長年ゲーミングモデルを扱っているため、そのノウハウが豊富だ。
今後もパソコンゲーマーの有力な選択肢になり続けるだろう。

Dell(ALIENWARE)

Dell は『ALIENWARE』(エイリアンウェア)を扱っているゲーミングPC界の黒船だ。
デルには無骨で安さを重視した、法人向けパソコンのイメージを持つ人が少なくないだろう。
今でもデル本体はコストパフォーマンス重視のビジネスモデルに注力している。

だがエイリアンウェアは違う。ゲームのための妥協のないハードウェアを追求しており、安さよりもパフォーマンスが最優先だ。
エイリアンウェアは登場当時、デカくてゴツくてビカビカ光るアメリカンなPCばかりで、とても日本向けとは思えなかったのだが、現在はやや小型の日本の環境に合うモデルも用意している。

そんなデルのゲーミングモデルは、昨年からふたつのブランドで展開されていた。
ひとつは前述したエイリアンウェア、もうひとつは『Dell G』シリーズだ。

Gシリーズは「エイリアンウェアを使うほどコアゲーマーではないけど、ゲームもできるノートパソコンが欲しい」という人に向けたエントリーモデルで、エイリアンウェアより安めで販売されている。


あまりゲーミングモデルには見えないデルの「G3」。他に「G5」と「G7」がある。
位置付けはゲーミングノートだが、デザインはあえて一般向けにしているようだ。
ビデオカードはG3がGeForce GTX1050か1050Ti、G5とG7は1060。

エイリアンウェアはコアゲーマー向けに、キーボードの反応や耐久力を強化したり、指が滑りにくい加工を施したり、冷却に優れる素材を使うといった様々な工夫を盛り込んでいるが、そうしたものがあれば価格は高くなる。

そこまで要らない人に手軽に買えるゲーミングPCを、というのがコンセプトのようで、ここはコストパフォーマンスを重視するデルらしさが垣間見える。

一方、エイリアンウェアは「プロゲーマーがeスポーツで勝負に勝てるモデルを」というのが現在のコンセプトで、アメリカでは「eスポーツの会社」として認知されているという。
アメリカのeスポーツ人口は年々増えているようで、選手から多くの意見を聞いて開発に反映しているようだ。

展示されていた今年のデスクトップの新モデル「ALIENWARE AURORA」を見せてもらったが、かなり特徴的だ。
側面のフタが外れるのではなく、扉のように横開きになり、しかもフタ側に電源ユニットが張り付いている。
これにより電源分のスペースがなくなるため、本体は構成の割にコンパクトになっている。


Dellの「NEW ALIENWARE AURORA」の外観とゲーミングキーボード&大型モニター。
開口部が多くていかにも通気が良さそうな本体。ライトアップはエイリアンウェアの基本。
大型モニターは曲面ディスプレイになっていて側面の端までよく見える。
最近のFPSやMMORPGはこうした大型表示に対応しているものが多く、敵をいち早く察知できるため有利になる。


NEW ALIENWARE AURORAの内部。電源の入った太い扉が大きな特徴。
エイリアンマークの付いたCPUクーラーはユーザーにはおなじみだ。
ケースの上部には水冷用のラジエーターが入っていて、HDDやSSDは下部のスペースに。
広報の方が「この筐体は配線が綺麗でほれぼれするんですよ」と、すごくマニアな感想を言っていたのが印象的だった。

かなりギュウギュウ詰めになっている印象があり、エアフロー(通気)が心配になったが、前面の上下2ヶ所からの吸気とCPUの水冷化により、しっかりと冷却できるとのこと。
静音にも配慮しているらしい。

eスポーツが盛んな国の、eスポーツのためのマシンは、今後もさらに進化していくだろう。
日本では「CYCLOPS athlete gaming」というチームのスポンサーになっている。

ゲーミングモデルの世界シェアでは間違いなくトップクラス。
本格的に取り組みたいパソコンゲーマーにとって、最有力マシンのひとつだろう。

HP(OMEN)

HP(ヒューレット・パッカード)はレノボと並び、世界最大手のパソコンのメーカーであるが、ゲーミングPCブランド『OMEN』(オーメン)を立ち上げたのは近年になってからで、この分野では後発だ。
だが、それ以前から HP の上位モデルはゲーム用途が可能で、PCゲーマーにも高く評価されていた。

2017年辺りから急にゲームに本気になった印象があるが、これもeスポーツの世界的な普及の影響だろうか?
そして元々技術力があるだけに、本気になった HP のゲーミングデバイスは流石というほかない。

今期のゲーミングPCのラインナップは、デルと同じくふたつのブランドで構成されている。
eスポーツを想定したアスリートモデル『OMEN』(オーメン)と、エントリーモデルの『Pavilion Gaming』(パビリオンゲーミング)だ。


HPのゲーミングノート。手前がOMEN、奥はPavilion Gaming。
OMENはGeForce GTX1060や1070を搭載。Pavilion Gamingは1050か1050Tiだが10万円を切る価格。

HP はパソコンのデザイン(外観)にこだわりのあるメーカーだが、Pavilion Gaming は派手すぎないデザインにすることを心がけたという。
ゲーミングモデルの多くは「いかにもゲーム向け」という外観を持つことが多いが、「ゲームはやるけど、そういうデザインは恥ずかしい」という人も少なくない。(筆者もそうだ)

加えてゲーミングモデルは基本的に「高性能モデル」であるため、ゲーム以外の用途も一通りこなすことができる。
他の作業で使っても違和感のないモデルに仕上げ、多機能PCとして売りたいという考えもあるようだ。

一方、オーメンはガチガチにゲーム志向であり、「アスリートモデル」と称していたところにこだわりを感じる。
eスポーツ選手と協業して様々なフィードバックを受け、水冷とオーバークロックを想定したハイスペック機に仕上げたという。


左はPavilion Gamingのデスクトップ、右は12月発売予定のOMENの小型デスクトップの新型。
この小型の新モデルに関しては、OMENでもそこまで派手ではない。紋章は目立つが。
小型とはいえGeForce RTX2080搭載モデルも用意されている。

だがオーメンの最大の特徴は、周辺機器だろう。
eスポーツ選手にとってPCは競技のためのツールであり、そうしたものは統一したデザインでそろえたいという要望が多かったらしく、そのためオーメンブランドはPC本体だけでなく、モニター、マウス、キーボード、ヘッドセット、バッグ、アクセサリにまで及び、黒を基調とした共通の外観になっている。

そしてマウスはどんな手にもフィットするように変形し、キーボードはキーの ON/OFF をLEDライトで確認可能、反応速度は一般のキーボードの10倍。
さらにヘッドセットには通電によって「ひんやり」する素材が入っていて、夏にずっと付けていても蒸れないし気持ちがいい。

去年も HP は「背負うVR用ゲーミングPC」を作っていたのだが(VRはゴーグルのコードで動きが妨げられるので、だったらPCも身に付けてしまえというコンセプト)、相変わらず技術力があり過ぎて、とんでもないものを作ってしまう感がある。


コガネムシみたいなゲーミングマウス。そこ、Gって言わないように。奥にあるのはキーが浮いてるキーボード。
マウスの下部にバネがあるのがわかるだろうか? これで自在に角度を調整でき、手に合わせた形状にすることができる。コードも滑りやすい素材とのこと。
キーボードは光学検出機能の付いたメカニカルスイッチ型で、しっかりした打鍵感と高反応を両立している。


思わず笑ってしまった「ひんやり」するヘッドセット。通電すると冷える「ペルチェ素子」なる謎素材で冷やす。
ひんやり具合は専用ソフトで調整可能で、実際に触ってみたが、本当に冷たくて気持ち良かった。
ついにゲーミングPCはCPUやビデオカードだけでなく、人間も冷却するようになってしまった。

HP のゲーミングPCには、すでに先行しているゲーミングモデルに「追い付け追い越せ」の気概を感じる。
デザインや周辺機器に強い点も HP らしく、自社の長所が活かされている。
今後は HP のモデルも、PCゲーマーの選択肢に入ってくることだろう。

パソコン工房(LEVEL)

パソコン工房は全国にアンテナショップを持つ大手の国内メーカーだ。
ウェブ販売が中心だが店舗サポートもウリとしており、豊富なモデルを取りそろえている。
もちろんその中にはゲーミングモデルも含まれる。

パソコン工房のゲーミングモデルは『LEVEL』というブランドで、eスポーツチームと提携し、有名選手とコラボした特別モデルを開発、それを売り出すことに力を入れているようだ。

会場にも選出の意見を聞いて作ったというゲーミングノートが展示されていたが、かなり特徴的だった。
側面にこれでもかと言うぐらい端子があるのだ。 この数は一般のモデルではあり得ないだろう。


「コラボゲーミングPC」の左側面。 USB3.1が2つにUSB-TypeCも2つ、HDMIが1つあるのにDisplayPortも2つある。 右側面にもUSBとイヤホン&マイク等がある。
プロゲーマーだとサブモニターやVR、コントローラーや実況機器などで、これだけ必要になるのだろうか?
最新のUSB3.1とUSB-Cをすでに複数搭載しているという点でも注目だ。

広報の方に聞くと、やはり有名なチームや選手が使っているモデルは人気があるそうだ。
その辺はスポーツ用品と変わらないのかもしれない。

ゲーム実況を見ているのは低い年齢層が中心のため、購買力のない人が多いのだが、そうした頃からファンをつかんでおくことや、知名度を上げておくことも売上げに繋がると考えているようだ。
そのためパソコン工房は『父ノ背中』、『Crazy Raccoon』、『RIG』など提携eスポーツチームが多い。

一方、コラボモデル以外のゲーミングPCは、ややオーソドックスな印象だ。
デスクトップのゲーミングモデルは今期からケースが変わっていて、シンプルで落ち着いたデザインになっているが、中身はよくある構造で、特徴を感じなかった。


「LEVEL」のデスクトップ。赤のラインが入った四角い外観は今流行りのフラットデザインでなかなか良い。
中身は昔ながらの作りで「特徴がないのが特徴」。

しかし、それが悪い訳ではない。オーソドックスであれば手を入れやすい。
パーツの交換や増設を考えている人にとっては扱いやすい本体だろう。

パソコン工房も去年見たときは小型や正方形のケースを使った、変わったゲーミングモデルを展示していたのだが、そうしたものはあまり売れなかったらしい。
BTO で購入する人が多いメーカーなので、拡張性の低そうな本体は嫌われるのかもしれない。
ただ「変わったケースのPCもまだあきらめていない」と言われていたので、何か準備はしているようだ。

パソコン工房はモデルの多さが魅力で、ゲーミング・コラボモデルもノートからデスクトップまで幅広い。
新技術の導入も早く、その辺は汎用的な作りだからこその長所だろう。


以上が今回お話を聞いた、ゲーミングモデルを用意しているPCメーカーだ。
それぞれのメーカーに特徴があるのがわかっていただけたと思う。

他にも有力なゲーミングモデルには、ドスパラの『GALLERIA』(ガレリア)や、ツクモの『G-GEAR』があるが、それらは今回のイベントには不参加だった。
『ASUS』も参加していたのだが、ゲーミングモデルに限った話ではなかったので、それは一般向けPCのレポートでご紹介したい。

中身のパーツが同じなら処理性能は同じになるが、各社が構造やケース、素材などで特色を出した開発を行っている。
PCゲーマーの参考になれば幸いだ。